2013年5月3日金曜日

2章


気がつくと、横に喜代田さんが立っていた。智穂は、他人にも自分にも優しい目線を向けられるこの後輩が羨ましかった。優しい気持ちをしっかりと持っている女性は、自分がカップルになった時に相手を幸せにできる自信を持っているに違いない。誰にでも特別な笑顔を見せられたが、交際している彼氏にはそれ以上の表情をしっかりと取っておいてあった。

「西村さんの隣の席を死守しましたから」

と喜代田さんが自信と優しさにあふれて話してくれているのに対して、智穂は笑顔では答えられなかった。智穂は、相手の目に曇りを探してしまう、きっと、その小さな曇りは表情全体にひろがってきっと自分を嫌いになると考え続けるに違いない-といつも確信を持っていた。

卒業記念パーティーの二次会は研究室の会で本来は人数が限られているはずだが、西村と話す時間はあまり取れそうにない。いつものように、「準教室員」と自称する6年生の女子学生も何人か来るだろう。でも、智穂には夏休みには特別な時間が待っている。その時に、話すことはゆっくり話せば良いのだ。新しくこれから見つける遺伝子やそれを見出す方法、それから、キツネのその後など、一杯話すことはある。その後の帰省では、久しぶりに大好きな父親に会えるはずだ。川床での父親との食事は、夏の京都の賑わい以上にたのしみだった。

そろそろ、華やかなパーティーから先輩たちが出てきていた。長い学生生活を頑張り通して、卒業と資格という2つのご褒美を手にしている晴れやかな顔の先輩たちは、どの顔も素敵だった。


http://horeame.blogspot.jp/2013/05/3_3.html
に続きます。

0 件のコメント:

コメントを投稿